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第13話

​「始動」

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 降り注ぐ大粒の雨が、通りの石畳を洗っている。夕刻から突如降り出した大雨は、濃霧に覆われたロンドンの街並みを瞬く間に墨色へ塗り潰した。ファルテシア王国の天気は、とかく変わりやすいことで有名だ。北大西洋の東側、そしてヨーロッパの西側に位置するこの島国は、赤道近くで熱せられた南大西洋の暖流が北海の冷たい海とぶつかり合い、非常に多くの霧が発生する。更には偏西風の影響もあり、雲の流れは速く、天候は常に予測しづらい。

 そんな土砂降りの雨を切り裂くように、一台の馬車がイーストエンド・オブ・ロンドンの通りを突き進む。二頭の頑健な輓馬(ばんば)に曳かれた屋根つきの箱形馬車(キャリッジ )には、三人のメイドがいかにも狭苦しそうに詰めている。

 

「ひどい雨だな……」

 

 三人のメイドのうち、ひとりが窓の外を見て言った。鼻筋の通った顔立ちと、口元に濃く引かれた赤いルージュ。そして美しく真っ直ぐに伸びた金髪が特徴的なメイドである。アーチ状に切り揃えられた前髪の下から覗く眼差しは変化に乏しく、いわく冷淡な印象を抱かせる。彼女の名はアヴリル・メイベル・レディントン。大貴族の令嬢にして〈コミュニア〉徽章を有するメイドであり、また王立ファルテシア学園において、メイド候補生たちを育成する教師という顔も持ち合わせる人物だ。

 

「あの子たち、びしょ濡れになっていなきゃいいけれど……」

 

 アヴリルの隣に座るメイドが続けて言った。ウェーブがかったブルネットの髪をポニーテールにまとめた、顔のそばかすが印象的なメイドであった。こちらはアヴリルとは対照的に、喜怒哀楽に富んだ表情が親しみやすい印象を抱かせる。彼女の名はノーラ・オブライエン。こちらも〈コミュニア〉徽章を有するメイドかつ教師であり、そして王立ファルテシア学園が誇る名門馬術部の長でもある人物だ。

 

「にしても、随分と大荷物だねぇ」

 

 ノーラは隣に座る小柄なメイドに言った。ノーラが視線を向けたその先には、合計三つの鉄製の鞄が鎮座している。使い古され幾重もの傷がついたその表面は、何ともいえぬ不吉な雰囲気を醸し出していた。

 

「『仕事道具』だよ。今晩は大仕事になりそうだし、フルセットで準備したってワケ」

 

 小柄なメイドはそう応え「それにしても今晩は冷えるなぁ」と、胸前で白いローブをかき合わせる。そのローブは〈協会〉職員の象徴たる一着だ。しかるに彼女は全メイドを統べる〈王立メイド協会〉の正統なる一員であり、それに能(あた)うだけの高度な技能を備えたメイドであるのだった。

 彼女の名はペネロペ・ハバート。〈協会〉ロンドン本部の情報局員という顔を持つ、いつも眠たげな瞳と、白色に近いぼさぼさの金髪が特徴的な年若い少女めかした見た目のメイドである。そんな彼女の容姿は、まさしく実年齢とはかけ離れた見た目に相違ない。十四、十五歳程度と見紛うばかりの容姿ではあるが、しかしその実年齢は十九歳。ペネロペもまたアヴリルやノーラと同じく、歴とした〈コミュニア〉徽章持ちのメイドであった。

 

「さすがは〈鍵師(キー・メイカー)〉。抜かりがないねぇ」

 

 ノーラはからかうようにペネロペに言った。それに対しペネロペは、

 

「今晩の件、僕の準備が無駄に終わることを祈ってるよ」

 

 と、表情を変えずに応じてみせる。

 

「そろそろだ。見えてきたぞ」

 

 二人の会話に参加することもなかったアヴリルが告げると、濃霧の中にそびえる要塞が、馬車の前方に見えてきた。濁流と化したテムズ川の岸辺に建つその威容は、『国王陛下の宮殿にして要塞たるロンドン塔(His Majesty's Royal Palace and Fortress of the Tower of London)』と呼称されるに相応しい威厳を放っている。

 かの征服王ウィリアム一世が建設を命じた、天守閣たる〈ホワイト・タワー〉を中心に、その要塞は堅牢な城壁と壕(ほり)に囲まれている。三人を乗せた馬車は入口の〈ミドル・タワー〉と通じる橋を進んでゆき、ロンドン塔専属の衛兵たち——〈ヨーマン・ウォーダーズ〉の敬礼を受けながら、ゆっくりと城門を潜り抜けた。

 遠くで目映いばかりに稲妻が光る。次いで、地鳴りにも似た雷鳴が轟いた。馬車を曳く輓馬(ばんば)たちが首を上げて強く嘶(いなな)き、御者は手綱を使ってそれを制する。折からの雨は強まる一方で、立ち籠(こ)める霧も相俟(あいま)って、見通しは悪い。

 馬車は城壁に沿って進み続け、〈ベル・タワー〉の横を通過すると、次いで〈叛逆者の門(トレイターズ・ゲート)〉を臨む通路を通り過ぎ、やがて〈ロウワー・ウェイクフィールド・タワー〉の前で停止した。

 

「アヴリル、ノーラ。久方ぶりだな。達者にしておったか」

 

 三人が馬車より降りると、雨具を羽織る老人が彼女たちを出迎えた。

 

「ご無沙汰しております、〈レイヴン・マスター〉」

 

 アヴリルは敬意の込もった声音で老人を呼び、握手を交わす。ノーラとペネロペもそれに続いて握手を交わした。

 

「この大雨で、カラスたちはどこかへ引っ込んでしまったよ。世話の仕事もなくなって、ちょうど退屈しておったところだ」

 

 老人はロンドン塔に住み着くワタリガラスを世話する退役軍人であった。その職には〈レイヴン・マスター〉なる名誉ある称号が与えられており、「ロンドン塔からワタリガラスがいなくなると王家が滅びる」または「ロンドン塔のワタリガラスはアーサー王の生まれ変わりであるので大事にしなければならない」との古くからの言い伝え通り、塔に住まうカラスたちの飼育と繁殖を一手に担う、きわめて重要な役職なのだ。

 

「ハバート嬢、そなたはまた〈仕事〉かね」

 

 〈レイヴン・マスター〉は大荷物を抱えたペネロペに問いかける。

 

「ええ、まあ。今日のは特に〈大仕事〉でして」

「仕事熱心なのは結構だが、あまり精を出すものではない。〈鍵師(キー・メイカー)〉たるそなたの〈仕事〉は、心を確実に蝕(むしば)んでゆく。程々にとどめておくことだ」

「心得ておきます」

 

 ペネロペは最敬礼で忠言に応じる。

 そうこう言葉を交わすうち、〈レイヴン・マスター〉に伴われた三人は〈ロウワー・ウェイクフィールド・タワー〉の入口に到着した。その鉄扉は閂(かんぬき)で固く閉ざされている。ここにも武装した〈ヨーマン・ウォーダーズ〉の兵士二名が配されていることから、内部は城塞の中でも重要な区画であることが窺(うかが)えた。

 

「雨の中ご苦労。例の面会者たちだ。看守二名を寄越してくれ。何が起こるかわからんからな」

「はっ、イエス・サー」

 

 〈レイヴン・マスター〉が門を守る〈ヨーマン・ウォーダーズ〉に声をかけると、ほどなくして屈強な看守二名が現れた。

 

「こちらへどうぞ」

 

 彼らは〈レイヴン・マスター〉とアヴリルたち三人を先導し、鉄扉を窮屈そうに潜り抜ける。塔の中は湿気に満ちており、灯りは少なく薄暗い。ここにあるのは政治犯や重犯罪人を閉じ込めるための牢獄だ。ロンドン塔は単なる要塞ではない。ここは監獄としての機能ばかりか、処刑場としての役割をも担う『犯罪者の収容設備』なのだ。

 看守たちと〈レイヴン・マスター〉に導かれ、アヴリルら三人は地下に通じる階段を降りてゆく。狭い石造りの回廊にあって、足音が幾重にも反響して耳朶を打った。

 回廊のそこかしこに張られた鉄格子の中からは、囚人たちの呻きや意味をなさない呟きが響いてくる。籠(こ)もりきった悪臭は鼻をつき、天井から雨漏りや汚水が滴る様は、とても衛生的な環境とは言い難い。

 それに何より、地下の回廊は異様なまでに暗かった。〈レイヴン・マスター〉や看守たちの持つランプがなければ、幾度も折れ曲がる回廊にあって即座に方向感覚を失ってしまうことだろう。何よりここの雰囲気は不気味すぎる。それこそ幽霊でも出かねない趣である。外から雷鳴が轟くたび、ペネロペなどは肩をびくりと震わせたものだった。

 

「しかし皮肉なものだの、アヴリル、ノーラ——〈学園〉で一番の才媛と謳(うた)われたそなたたちが、盟友同士、鉄格子越しの再会を果たすことになるとは……」

「まったくです。しかし、これも定められた運命というもの。時計の針を巻き戻せたらどんなに良いかと思いますが、現実にあってそれも叶わぬ以上、あるがままを直視することしか、我々にはできません」

「ほほっ、相変わらずの現実主義者ぶりだ」

 

 表情を変えずに告げるアヴリルの言葉に〈レイヴン・マスター〉は苦笑を洩らす。そうこうするうち——アヴリルたち三人は、目的の場所に辿り着いた。

 

「囚人番号六○七番! 面会者だ! 顔を上げろ!」

 

 看守のひとりが立ち止まり、胴間声を張り上げる。地下回廊の最奥。そこに目当ての独房は位置していた。二重に張られた鉄格子の向こう側に、鋼鉄製の椅子へ括りつけられた女がいる。彼女に着せられた拘束衣は何本もの革ベルトで固定されており、身じろぎひとつできないよう、それらはきつく締め上げられていた。

 囚人の女は、ゆらりとその面(おもて)を上げ、アヴリルたちのことを睨み据える。

 闇の奥——泥とも煤(すす)ともつかない黒ずんだ汚れにまみれた顔の中で、女の双眸だけがぎらりと赤く光っていた。それはまさしく、鮮血のように赤い眼光だった。

 〈紅目(あかめ)のクリス〉。

 それがかつての彼女の二つ名である。

 

「クリス・ワインハート……お前には訊きたいことが山ほどある」

 

 見る者を射るかのような眼光を真正面から受け止めてなお、アヴリルは鉄の表情を崩さなかった。看守が独房の扉を解錠し、アヴリルは迷うことなく密室の内部に歩を進める。

 

「念のため忠告します。彼女の間合いに近づかない方が良い……拘束具を装着させているとはいえ、です」

「案ずるな。私を誰だと思っている」

「はっ……失礼いたしました」

 

 槍を手にした看守へ振り向き、アヴリルはこともなげに言うと、拘束されたクリスのもとへ近づいていった。あまりに迷いのない行動に、ペネロペなどは思わず息を呑んだほどだった。

 

「口を塞がれているのか。どれ、喋りやすいようにしてやろう」

 

 アヴリルはクリスの顎先を持ち上げると、口枷を外し、床に棄てた。

 

「……いまさら私に何の用だ」

「憲兵の調書を読ませて貰った。お前、肝心なことを話していないな」

「……何のことだ」

「お前らの雇い主について、だ。あの事件で捕らえた〈闇メイド〉一同、雇い主についてはお前しか知り得ないと口を揃える。だが肝心のお前は口を割らない。手酷い尋問にかけられてなお、だ」

「……」

「あの事件——我が校の仮ライセンス受験生に対する誘拐未遂事件は、いまだ謎が多い。単刀直入に訊こう。カエデを狙った理由は何だ?」

「……」

「そうだ、カエデだ。あの子を狙ったという時点で、我々にとってお前のしでかしたことは最重要の調査事案に値する。カエデという生徒がいかに内政上・外交上の機微に触れる存在か、知らないわけではあるまい?」

「……」

 

 クリスは口を閉ざしたまま、アヴリルを赤い瞳で睨みつける。

 〈紅目のクリス〉ことクリス・ワインハート——彼女こそ二ヶ月前、王立ファルテシア学園において、仮ライセンス試験の実技試験に臨んでいた生徒たちを襲撃した首謀者なのだ。かの事件では、受験生のひとり——東洋人の生徒であるカエデの身柄が攫われ、アヴリルら〈コミュニア〉のメイドたちが事態の鎮圧に乗り出す騒ぎになったのだった。

 クリスの素性は、〈闇メイド〉と呼ばれる〈協会〉非公認のメイドである。〈協会〉に認められたメイドの証たる〈コミュニア〉の徽章を持たない彼女ら〈闇メイド〉たちは、〈紋無し〉の蔑称でも呼ばれている。ちょうど徽章を持つ〈コミュニア〉のことを、〈紋付き〉と呼ぶのと正反対の格好だ。

 そして当のクリスはといえば、かつてはアヴリルらとともに軍情報部へ出向していた〈協会〉公認の正式な〈コミュニア〉であったのだ。それが〈闇メイド〉にまで身をやつした理由は何なのか——アヴリルはまさに、そこへ切り込むような言葉を投げかける。

 

「お前、脅されているな」

 

 と。その瞬間、クリスの目の奥の光が、にわかに変質したかのように思われた。だが、そんなクリスは再びアヴリルのことを睨みつける。

 

「……ああ、いままさに、私は目の前にいる貴様に脅されている。〈鍵師(キー・メイカー)〉まで連れ立って、私を拷問にかける気だろう」

「その気になればいつでも強硬手段を取れるようにな。どんなに強固な鍵でも無理矢理『こじ開ける』ことができるから〈鍵師(キー・メイカー)〉……まったく、言い得て妙な異名だよ」

 

 アヴリルは後ろへ控えるペネロペをちらりと見やる。

 当のペネロペは、「ひとをサディストみたいに言うなよ、人聞きわるいなー!」と鉄製の鞄三つを床に置き、そのひとつをこれ見よがしに開けてみせる。鞄の内部には、大小さまざまな拷問器具が整然と磨き上げられて並んでいた。無論、クリスに対する脅しの意味を込めたパフォーマンスである。

 

「クリス、私にあの子を『使わせ』ないでくれ。お前が真実をすべて話せば、私はあの子を使わずに済む。お前自身も、要らぬ苦痛を覚えずに済むだろう。それにあの子の尋問に、お前が耐えられるとはとても思えん」

「——それで『あいつ』が助かるのならば、私はどんな苦痛にも耐えてみせるさ」

「ほう、自ら口を割るとは」

 

 アヴリルが感心したように口元をすぼめる。まるで口笛でも吹かんばかりの調子だった。クリスはそんな彼女から目を背け、唇を噛む。

 

「……なぜこうなってしまったのだろうな」

「さあな」

 

 クリスが小声で呟いた言葉に、アヴリルはあくまで冷淡に応じる。

 

「貴様の言うとおり、私は脅迫されていたのだ……。言う通りにしなければ、『あいつ』をすぐさま処刑台に送り込むと」

「この塔へ収容されている、弟君のことか」

「そうだ」

 

 吐き捨てるようにクリスは言う。

 

「私が貴様らとともに軍情報部へ出向していた頃……弟が政治犯として憲兵どもに逮捕された。あいつは大学で知り合った活動家らと、数回食事をともにしただけにすぎないというのに……」

「弟君は王政打倒の革命思想を扇動する活動家と当局に見なされ、このロンドン塔に収監された。弟自身は身の潔白を主張したが、無駄に終わった——そうだったな」

 

 アヴリルはクリスの言葉を先回りし、そして続ける。

 

「お前が我々の前から姿を消し、〈紋無し〉として活動をはじめたのもその頃だな」

「そうだ。〈コミュニア〉の徽章を棄てろと命じられた私は、その頃からある人物のもとで動くようになった。無論、〈闇メイド〉としてな。あらゆる非合法活動に従事させられたよ。貴族や代議士たちの誘拐や脅迫、それに暗殺……挙げ続ければきりがない」

「『ある人物』といったな。そいつの名を言え」

「〈シンボル〉。やつはそう名乗っていた」

「そいつは一体何者だ」

「私にも正体はわからん。会ったことがないからな。やつは常に連絡員を通じて接触してきた」

 

 と、そこでアヴリルの背後に立つノーラは、独房の外に控える〈レイヴン・マスター〉に目配せする。

 

「看守の方々に外して貰うよう言ってください。ここから先の話は、国の機密事項に触れる話になりますので……」

「相手はあの〈紅目のクリス〉だ。何かあったらどうするつもりかね」

「ご心配には及びません。貴殿にとって、アヴリルはまだまだヒヨッ子の『教え子』のままなのでしょうけれど、いまは違う。何せ〈フォルセティ〉の四人をシゴき上げた女傑ですよ? あの状態のクリスに不覚を取ることなんて、あり得ません」

 

 ノーラはウインクとともに言い切った。ややあって溜息交じりの〈レイヴン・マスター〉が命じると、看守二人は敬礼を残して去って行った。

 

「——カエデの誘拐を命じたのも、その〈シンボル〉とやらか」

「そうだ」

「目的は何だ」

「言えるものか。弟の命が懸かっている」

 

 クリスは決然とした瞳でアヴリルを見据える。

 

「言え。私に〈鍵師(キー・メイカー)〉を『使わせ』ないでくれ」

「拷問にでも何にでもかけるがいい。弟の命がそれで助かるのなら、目でも歯でもくれてやる……!」

 

 すると、アヴリルは純白の手袋で覆われた指先で、汚れきったクリスの頬にそっと触れた。固まった血や垢で、絹製の手袋が汚れるのも構わずだ。

 

「いいかクリス。〈協会〉に矛を向けた以上、いまやお前は我々の敵だ。だがそれ以前に、お前はかつての盟友でもある。だから私は、お前が弟想いの優しい姉であることも充分すぎるほどに知っている。弟君が逮捕されたとき、ひとりで悩んでいたお前を救ってやれなかったことを、ずっと後悔し続けるほどにな……」

 

 伸ばした指先で頬を撫でると、クリスは拘束衣に覆われた身体を震わせた。

 

「……何が言いたい」

「交渉だ。我々はカードを一枚開示する。それが手札に欲しい一枚ならば、お前は我々の望むカードを必要なだけ差し出せ。交渉に応じるか、〈鍵師(キー・メイカー)〉の手にかかるか、二つにひとつだ」

 

 どうする? とアヴリルは問う

 

「……貴様が言う「カード」とやらの中身を見せろ。話はそれからだ」

「弟君の身の安全を確約してやってもいい。減刑に向けた手続きの準備も済ませてある」

 

 はっとした顔で、クリスはアヴリルの顔を見上げている。

 

「我々〈協会〉はロンドンの司法界に顔が利く。その程度の横車を押すことなど、造作もない」

「……その言葉を信じろとでも?」

 

 やれやれと肩をすくめたアヴリルはノーラの方を振り返り、二枚の紙を受け取った。クリスの眼前へ突きつけられたそれらには、〈協会〉の要員をクリスの弟に護衛としてつける旨と、減刑に関する司法大臣の署名が記された証書が記されていた。

 

「選択の余地はないはずだ」

 

 肩を落とし、再びアヴリルを見上げたクリスは、ようやくといった具合に口を開いた。

 

「カエデ嬢の身柄を攫おうとした目的は、〈モミジ〉を盤上から排除するため——〈1(エース)〉と名乗る連絡員は、そんなことを言っていたな」

 

 ~~~

 

 それにしても目まぐるしい一日だったと、寝間着に着替えたナナ・ミシェーレは、疲労困憊の五体をベッドに投げた。宿屋のシーツは新品同然といった具合に糊がとても効いており、肌に触れる表面はすべすべだ。あまりの心地よさに、目を閉じた瞬間、睡魔が襲ってくるほどだった。

 

「ナナちゃん! 起きて! 眠るのは日誌を書いてからだよ!」

 

 身体をゆさゆさと揺さぶられ、夢の世界へ入りかけていたナナは「ふぁ? もう朝?」と間抜けな声を上げてしまう。ぱちりと目を開けると、目の前には「もう!」と言いたげなニコルのふくれた顔があるのだった。

 そうだ! 忘れていた! 学園外への外出時は、一日ごとに行動日誌をつけなければならないのだ!

 ナナはすぐさま飛び起きて、荷物の中から冊子を取り出す。宿屋の大部屋にいる皆は部屋の中央へ置かれたランプの周囲に集まって、ああでもない、こうでもないと一日の感想を述べ合いながら日誌をつけているところだった。

 

「あんたねぇ、仮にも半人前のメイドになったばかりなんだから、シャキッとしなさいよシャキッと。集団行動はメイドにとって基本中の基本でしょうが!」

 

 リサがナナの背中を叩きながら言う。ニコルとリサは、ナナのルームメイトたちである。ニコル・ベイカーはスコットランド出身の15歳。おっとりした控えめな雰囲気と、少し癖のある青みがかったロングの黒髪が特徴的な少女である。一方のリサ・キャロットは、ナナと同じくフランスの農村部出身の14歳。気の強さ、気性の荒さを絵に描いたような雰囲気で、焦茶色のストレートなロングヘアが特徴的な少女である。

 

「どこへ行ってもすぐ寝られるのは一種の才能ですよ、才能。それに寝る子は育つって言いますしね。将来のナナさんはきっと背もでっかくなるんですよ。いつまで経っても『ちんまい』ままの私としては、羨ましい限りです」

「リンちゃん、いつも夜遅くまで勉強してるよね。早く寝るようにすれば、もっと背が伸びるんじゃない?」

 

 早口でまくし立てるリンに、カエデが「ふふっ」と微笑みながら応じた。二人は互いにルームメイトで、いつもくっついて行動することから、上級生たちに「姉妹みたい」と可愛がられているのだった。

 リン・ファンは清(中国)から留学してきた十二歳。年相応の愛らしい見た目、さらにはお下げにした三つ編みが特徴的な少女であるが、しかし頭脳の明晰さと武術の腕は学年随一。清(中国)の国策であるメイド育成計画に選ばれた、特待留学生なのである。

 一方、カエデはコッツウォルズ地方にある孤児院出身の十一歳。こちらもリンと同じく、年相応の愛らしい見た目をした東洋人であるのだが、どこの国に出自があるのか、実のところ本人も良くわかっていないのだという。ただひとつ確かなのは、母が残してくれた東洋風の髪飾りひとつのみ。カエデはいまでもその髪飾りを愛用している。

 モミジ——っていうのがカエデのお母さんの名前なんだっけ……ナナはレディントン先生の言葉を思い返す。カエデのお母さんがトップを務める組織で、レディントン先生のみならず、〈フォルセティ〉までもが動いている——今日聞いた話は、まったくにわかには信じがたい話であったわけだが、しかし……日誌をつける手は止まり、ナナの思考はめまぐるしく動き続ける。

 

「もっと早く寝るようにする——なるほど確かに妙案ですね。しかし背の高さと成績の良さなら、私は迷わず成績の方を取るまでです」

 

 リンは日誌をつける手を休めることなくカエデに言った。

 しかし、その意見に「いえ、そうとも限りません」と待ったをかける者がいた。

 

「戦闘において体重(ウェイト)と有効射程(リーチ)はきわめて重要な要素です。槍使いのリンなら、リーチの差はさほど問題にならないでしょう。しかし、問題はウェイトです。リンの体重では、体格差のある相手であれば簡単に押し負けてしまう。リンにはもっと身長が必要です」

 

 声の主はジュリアであった。彼女もまた、日誌の手を休めることなく話し続ける。

 

「朝晩と牛乳を飲まれてみては? 牛乳は骨の成長を促進させる効果があるそうです」

「そこまで具体的な案を示されると、何だか逆に小馬鹿にさ(ディスら)れているように感じますね……」

 

 ピクピクと眉間を震わせながらリンが応える。彼女は内心、成長期を迎えたにも関わらず身長が伸び悩んでいることに多少なりともコンプレックスを抱いているのだ。

 一方、そんな二人のやり取りを見ていたエリザベートは、「アッハハ」と貴族令嬢らしからぬ大きな声を上げて笑ったのだった。

 

「む、エリザさん。何がおかしいんですか」

「ごめんなさいね……悪気はないの。ジュリアが軽口を叩き合ってるのなんて初めて見たから、何だかおかしくって……!」

 

 エリザベートの言葉に、従者であるジュリアは「また何か変なことを言ってしまいましたか……?」と、主人の様子を伺う忠犬のように小首をかしげる。そんな従者の仕草が可愛くてたまらないのか、エリザベートはジュリアにがばりと抱きついて、「ぜーんぜん、そんなことないのよ! よしよしよし」などと良いながらその髪を撫で回している始末である。

 

「とんだバカップルですね。ついていけません」

「仮ライセンス試験の一件以来、ジュリアさんに対するエリザさんの溺愛具合、ちょっとひどくなっていませんか?」

 

 半目で言うリンに、ユスティーナがそっと耳打ちする。リンは迷わず頷いた。

 自らの従者をなおも大型犬めいて撫で回し続けているのは、エリザベート・アインフェリア。イタリアはナポリとシチリアに居城を構える名門貴族・アインフェリア家の娘である。年齢は十五歳。容姿端麗、頭脳明晰、武芸百般と貴族令嬢を絵に描いたような才媛である。驚くほど大きな瞳と宝石のように煌びやかな金髪、すらりと長い手脚が特徴的な美少女だ。

 そんな貴族令嬢たる美少女に無表情のまま撫で回されているのは、ジュリア・エインフェリア、十五歳。名門貴族・アインフェリア家専属の従者を務める家系・エインフェリア家の娘である。こちらも主人のエリザベート同様、容姿端麗、頭脳明晰、武芸百般といった次第なのだが、エリザベートが周囲に目映いばかりの光を振りまく「太陽」のような美少女なのだとしたら、ジュリアはいわば闇の中で光り輝く「月」のような美少女であるというのが、上級生たちからの評判であった。

 更に、リンへひっそりと耳打ちした眼鏡の少女は、ユスティーナ・ジェルジェンスカヤ。ロシア帝国出身の十五歳である。彼女の両親はモスクワからファルテシア王国へ亡命を果たしてきた新聞記者夫婦ということで、その血を継いだからなのか、娘であるユスティーナも学園新聞編集部のエース記者として活躍をしている。将来は新聞社つきの従軍記者兼メイドとして、大ドイツとの〈冷たい戦争〉の最前線で記事を書くことを目標にしているのだという。インテリそのものといった具合に引き結ばれた口元とブルーの瞳、フィッシュボーン状に編んだ黒髪と色素が薄い白い肌が特徴的な少女であった。

 

「外の雨、やまないね」

「明日までにはやんでくれると良いのですが……こう雨続きだと、折角の王都見物もままなりません」

「寮のみんなへのおみやげ、何がいいかなぁ」

 

 カエデとリン、そしてニコルの声。更にはジュリアにちょっかいを出し続けるエリザベートたちの声。宿屋の大部屋に響き渡るクラスメイトたちの話し声や笑い声を聞きながら、ナナ・ミシェーレの思考は、やはり別のところへ飛んでいた。

 今日という忙しくもめまぐるしく過ぎていった一日の記憶——いま目の前にいるメイド学科一年生の同級生たちとともに、ロンドンの〈王立メイド協会〉本部で〈仮ライセンス〉を正式に授与されたとき。あの過酷な試験を皆で乗り越え、〈仮ライセンス〉取得という目標を皆で叶えることができたのだと、こみ上げる感慨に全身が沸き立つような心持ちだった。

 そして何より、命の恩人であるルル・ラ・シャルロットと思わぬ形で再会を果たしたとき。

 ルルはナナにとって「憧れの人物」という表現ではあらわしきれないほどの憧憬を抱いている人物だ。かつて命を救われた恩義があるから——それもある。しかしそれ以上に、あの運命の日、ナナを脅かす傭兵団の賊たちを撃退するべく戦ったルルの姿はとても気高く、美しかった。

 戦女神というものがもしこの地上に顕現したのだとしたら、それはきっと、ルル・ラ・シャルロットのような姿形を取るのであろう。思わずそう思ってしまうほど、あのときのルルはナナの目に神聖なものとして映ったのだ。

 それもそのはずである。ルル・ラ・シャルロットは地上に存在する全メイドたちの中において、実力でも名声でも最高峰に位置するメイドであり、彼女の仲間である三人のメイドたち——つまり〈フォルセティ〉のメンバーを置いて、ルルに匹敵するメイドなど存在しようもないのである。

 〈フォルセティ〉——王国最強、いや、地上最強のメイド四人で構成されたドリーム・チーム。そのメンバーをなす四人こそ、王立ファルテシア学園はじまって以来の最高傑作と称えられた、第一三三期生の主席四人衆——ルル・ラ・シャルロット、シエナ・フィナンシェ、ノフィーナ・デ・タルト、マリエール・ウィークエンドの四名である。

 〈王宮メイド(His Majesty’s Secret Service)〉の頂点をなす最強のメイドたち——すべてのメイドにとって憧れの的であるエリート中のエリートである〈フォルセティ〉の皆と、ナナたちは今日直接会って話をしたのだ。

 宿の大部屋にいる皆は、ニコルも、リサも、リンも、カエデも、エリザベートもジュリアもユスティーナも、今日〈フォルセティ〉の皆と交わした話について触れようともしない。それもそのはずだ。あれはすぐさま腹に落とせる類の話ではない。そう、あの一連の話は、とてもすぐには受け容れることのできない話であったのだから——。

 

「お前たちは仮ライセンス保持者として、これから〈フォルセティ〉と行動をともにして貰う。秘密作戦に従事するこいつらを支援するのだ」

 

 ナナの記憶は、今日の午後、〈協会〉本部会議室に飛んでいる。ニコル、リサ、リン、カエデ、エリザベート、ジュリア、ユスティーナ、そしてレディントン先生とペネロペもあの場にいた。仮ライセンス授賞式のあと、「正しきことをなし、メイド道に殉じる覚悟——」それを持つ者だけついて来いと、ナナたちは会議室に呼び出されたのだ。

 磨き上げられた会議卓には、それぞれペネロペが淹れてくれた紅茶が出席者分だけ一杯ずつ置かれている。そしてナナたちの目の前には、〈フォルセティ〉の四人が座っていた。

 

 シャルロットさんたちと、行動を、ともにする——?

 ナナはレディントン先生の言っていることが即座に理解できなかった。

 そんな反応を見越してか、レディントン先生はやれやれと肩をすくめつつ言葉を継ぐ。

 

「さて、こんなことを言われて即座に受け容れろというのも無理があるのは百も承知だ。そうだな……まずはことの経緯から説明しよう。我が王国と大ドイツをめぐるヨーロッパの情勢がいまどうなっているかは、知っているな?」

「両陣営による冷戦状態の解消を目的とした講和条約締結に向け、東西陣営の歩み寄りが進んでいます」

 

 こうした話題に聡いユスティーナが、真っ先に回答した。

 

「教科書通りの回答だ。正解、と言っておこう。ではジェルジェンスカヤ。講和条約締結に関して、我らが王都の議会では、いま何が起こっている」

「大ドイツが我が国に突きつけてきた軍縮規約について、日々紛糾を重ねています」

「そうだ。我が国はいま、大ドイツをめぐって真っ二つに割れようとしているのだ」

 

 レディントン先生とユスティーナのやり取りを聞きつつ、ナナの頭の上はクエスチョンマークで一杯だ。必死に会話についてゆこうとするものの、頭頂部から湯気が出そうな心持ちだった。ふと周りを見れば、ニコルやカエデも同じような調子だった。

 そんなナナたちの様子を見咎めてか、対面に座るルルは「うふふ」と柔和に微笑んでみせ、「失礼」とだけ断り、レディントン先生の話を中断させた。

 

「私の方から少しだけ補足を。生徒さんたち向けに、少しだけ噛み砕いて話しますね」

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 ルルが言うと、レディントン先生は「うむ」と頷いて指を組んだ。

 

「フランスをはじめとした西ヨーロッパ陣営と、大ドイツをはじめとした東ヨーロッパ陣営の冷戦関係は、大きな転換点を迎えています。我が国を仲介国として講和条約を結び、前世紀のあの忌まわしき〈大戦〉以来続く、百年におよぶ両国の緊張関係に終止符を打とうとしているのです。それは表向き「争いの時代から対話の時代への転換」とも取れる出来事ですが、しかし水面下では、両国の覇権を賭けた駆け引きが行われているのが事実です」

 

 ニコルやカエデは「ふむふむ」と熱心に頷きながらルルの話を傾聴している。一方、こうした分野が不得手なナナはちんぷんかんぷんといった趣だ。しかし、立て板に水といった調子でルルの話は続いてゆく。

 

「講和条約締結について、大ドイツ政府は我が国にひとつの条件を提示しました。それは西ヨーロッパ諸国へ派兵しているファルテシア王立軍の撤退と、海軍の規模縮小をはじめとした一連の軍縮規約です。これに我が国の軍閥系議員や軍人たちは「ファルテシアの軍事力を削ぐための大ドイツの策謀である」と反発しているのね」

「要するにだ。その軍縮規約とやらのおかげで、議会は大ドイツにブチ切れる議員サマ連中が大騒ぎ。機能不全に陥りかけてるってわけよ」

「ここで問題になっているのは——大ドイツ政府が一方的に突きつけてきた軍縮規約を呑もうとしているのが、国王陛下自身であるということね。陛下ご自身は「対話の時代への移行のためであれば、代償を払うことも必要だ」なんて仰られてはいるけれど、実際のところはどうなのか……」

 

 ルルの講釈を、シエナ・フィナンシェと、そしてマリエール・ウィークエンドが補足する。シエナは見た目の通りくだけた口調であり、反対にマリエールは外見の印象通り、いかにも神経質そうな口調だった。

 

「ここから先の話は他言無用だ。我々〈協会〉の機密に触れる話だからな」

 

 そして、レディントン先生が厳かに告げる。有無を言わせぬ口調であった。これから語られる話を他言した場合、わかっているだろうな——と言外に伝えるかのような趣であった。ナナたちは緊張のあまり、思わず唾を飲み込んだ。

 

「私が率いるチームと〈フォルセティ〉の四人は、ある極秘の内偵任務に従事している。極秘中の極秘といって差し支えない秘密任務だ」

 

 しばしの沈黙ののち、レディントン先生は言葉を継いだ。

 

「結論から言おう。我々の任務における内偵の対象は、国王陛下その人だ。陛下の周辺には、大ドイツ情報機関のスパイ網が張り巡らされている蓋然性が非常に高い。我々の目標は、このスパイ網を補足し、陛下に軍縮規約を呑ませようとする大ドイツ情報機関の工作活動を挫(くじ)くことにある」

 

 あまりの内容に、その場にいたナナ以下八名の生徒たちは一切の言葉を失った。

 

「ま、待ってください!」

 

 やにわにエリザベートが発言する。ひどく混乱したような声音だった。

 

「〈フォルセティ〉の皆様は〈王宮メイド〉……つまり、国王陛下をトップとした〈王宮〉の指揮命令下にあるメイドです! それが〈協会〉指示のもと、陛下に対する内偵任務についているとなると……指揮命令系統からの逸脱ばかりか、〈王宮〉への叛逆行為とも見なされかねません……! 許されるのですか、こんなことが……!」

「エリザ、お前の言うとおり本作戦が露見した場合、〈フォルセティ〉は〈王宮〉に面従腹背していた卑劣な逆賊ということになるな。国の英雄たる彼女たちにどのような罰が下るのかは、火を見るより明らかだ」

 

 レディントン先生の言葉を聞いたシエナが、何やら可笑しげに「にしし」と笑う。

 

「確かに〈フォルセティ〉の指揮命令権は、現状〈王宮〉の上級役人どもが有している。だが他の〈王宮メイド〉たち同様、我々〈協会〉はあくまで〈フォルセティ〉の四人を〈王宮〉に貸し与えているにすぎない。〈フォルセティ〉を好き勝手動かせないよう、〈王宮〉の上級役人には法的な枷(かせ)もかけられている。我々〈協会〉の認可を通さない限り、〈王宮〉は〈フォルセティ〉を思うままに動かせないのだ。よって〈王宮〉内部の情報は〈フォルセティ〉の動向を通じてつつがなく我々の耳へ入ってくる。国王陛下に対する内偵へ従事する要員として、これ以上の人選が存在するかね?」

 

 いいか、とレディントン先生はナナたちのことを鋭い眼光で見据えている。

 

「この部屋へ入ることに同意した時点で、君らはもう後戻りなのできないのだ。〈フォルセティ〉の任務を支援し、我々の目標達成に貢献したまえ——メイド道を歩む者として殉じるべき正義のために、だ」

 

 そしてナナは向かい側に座るルルの顔をちらりと見やる。そこには柔和な微笑みを浮かべ、ナナたちのことを優しげに見つめている憧れの人の姿があるのだった。

 複雑な話についてゆくことはできなかったけれど、レディントン先生が言っていることの主旨は理解できる。ルルたち〈フォルセティ〉は、いままさに大ドイツのスパイたちと戦っていて、王国のトップたる国王陛下の身の回りを調査する任を負っている。しかしそれは同時に、任務の内実が露見した際は王国から逆賊と見なされかねない、危険な任務でもあるのである。

 いったい私たち、これからどうなってしまうのか……ナナは内心そんな風に思いつつ、すがるような思いでルルの微笑みを眺めていたのだった。

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