第21話

​「反撃」

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 目蓋を開くと、暗がりの奥に天井が見える。冷たい石造りの天井だった。

 

「気づいたか」

 

 声が聞こえた。どこかで聴いた声だ。この声は確か……。

 

「無理をするな。傷が開く」

 

 自らの額を優しげに撫でてくれる、手のひらの感触。ペネロペ・ハバートは全身を貫く痛みに震えながら、傍らの人物を虚ろな視線で見上げ、その名を呼んだ。クリス……と。

 〈紅目のクリス〉——かつての仲間であり敵でもある女の名を呼ぶ、とても弱々しい声音だった。無理もない。ペネロペは胸を剣で串刺しにされるという深手を負っていたのだ。

 

「ここは……?」

「ロンドン塔だ。お前、死にかけてたぞ。誰にやられた」

 

 記憶を手繰る。〈エース〉を尋問しているさなか、背後から胸をひと突きされた。そのとき目にした敵の顔は、まぎれもなく——。

 

「シャルル……、シャルル・ド・アントリーシュ……」

 

 ペネロペを見下ろすクリスが、紅い双眸を険しくさせながら言った。「そうか」と。

 

「〈エース〉を尋問していたところを……背後から、襲われた……間違いない、あれは……あの顔は……」

 

 ペネロペは苦痛に顔を歪める。

 

「見間違えるはずもない……ぼくを刺したのは、シャルルだ……」

「〈ジョーカー〉か」

 

 別の声が聞こえた。モミジの側近を務める〈エスパティエ〉、マージョリーの声だ。

 

「そうだ……〈ジョーカー〉だ……! シャルルは自分のことをそう名乗っていた……!」

「もういい、喋るな。傷に障(さわ)る」

 

 クリスが言った。

 

「こいつの傷だが、心臓を避けるようにして刺されていた。どう思う?」

「殺すつもりはなかった……同時に、生かすつもりもなかった。そんなところだろうな」

 

 マージョリーが応える。

 

「〈ジョーカー〉の意図は何だったんだ……」

「わからん、わからんよ。もはや誰にも彼女のことなど理解できんさ」

 

 場をしばしの沈黙が支配する。先に言葉を発したのはマージョリーだった。

 

「ところで、モミジはまだ戻ってこないか」

「もしや、ということも考えておくべきかもしれないな」

 

 マージョリーが言う。

 

「いまのシャルルはシャルルじゃない、いまのあいつは〈ジョーカー〉だ。昔と同じだと考えるべきではなかった——迂闊(うかつ)だ。主(あるじ)をひとりで行かせるべきではなかったのだ」

「どうする。ここを堅守するのが私たちの役目のはずだろう?」

「アヴリルを呼んでくれ。作戦と部隊編成を組み直す。モミジの無事は、私が確認してこよう」

 

 背丈ほどもある一振りの大剣を手に、マージョリーは立ち上がった。

 

 ~~~

 

 市場のアーケードはそこかしこが暴徒たちの手によって打ち壊され、放たれた火は誰に消されることもなく付近の物という物から黒煙を立ち上らせている。国王の退位を求めて街を練り歩く人びとはすずなりとなり、傍らを次々と通り過ぎていった。

 そんな風景のただ中、ノフィーナ・デ・タルトは立ち止まった。

 彼女の目の前には見知らぬ二人組が立っている。いずれも軍服のようなデザインをした、漆黒のメイド服に身を包んだ者たちだ。

 ひとりは赤い髪とそばかす、両耳のピアスが特徴的な少女だった。もうひとりは編み込みの入ったショートボブの銀髪と、背後に背負った長銃身のマスケット銃が特徴的な少女である。

 赤髪の少女は〈スリー〉、銀髪の少女は〈フォー〉と名乗った。彼女たちは〈ナンバーズ〉の一員、つまりノフィたちの敵である。

 

「そう警戒しないでくれ。あたしたちは別に戦いにきたわけじゃない。この通りな」

 

 赤髪の少女〈スリー〉はメイド服の上着を開き、中に仕舞われた大量のナイフを地面に捨てた。凄まじい量のナイフが石畳にぶつかり、鋭い音を立てて散らばってゆく。

 

「……どういうつもり?」

 

 警戒心を解かずノフィが問う。彼女はリンとカエデを庇(かば)うようにして矢面に立ち、〈スリー〉と〈フォー〉へ対峙している。相手は卑怯な手さえ使ってくる手合いである。それをウェストミンスターの戦いでは嫌というほど思い知らされた。こちらの油断を誘っている可能性も、否定はできない。

 

「あんたら〈フォルセティ〉に、身柄の保護を要請したい」

 

 〈スリー〉が発した言葉の真意を読むことができず、ノフィは更に警戒を強める。

 

「あたしと〈フォー〉は〈ナンバーズ〉から離反する。だが〈ジョーカー〉は裏切り者を許さない。となれば、頼りになるのはあんたらだけだ」

「それってつまり、投降するってこと……?」

「そういう意味に取って貰って構わない」

「……」

「あたしらはあんたらが知るべき情報を持っている。その代わり、あんたらはあたしたちの身の安全を保護する。いわゆるWin・Winの取引ってやつだ。悪くない話だろう?」

「……信じるとでも」

「これで満足か?」

 

 二人の会話へ割り込むように、銀髪の少女〈フォー〉がそう言って、背中に背負っていたマスケット銃をその場で手早く分解した。目にも止まらぬ早業であった。

 

「隠れ潜むべき狙撃手が、敵の目の前に堂々と姿晒してんだ。投降する以外の意思なんてあるもんかよ」

 

 剣呑な目つきで〈フォー〉はノフィを睨んでいる。とはいっても、もとより〈フォー〉はそうした目つきの少女であったのだが、ノフィ自身そんなことは知る由もない。

 

「……私たちが『知るべき情報』というのは、何なのですか?」

 

 リンが勇気を出して問いかける。すると赤髪の少女〈スリー〉が、懐から一片の紙を取り出して言った。

 

「いいか、よく聞けよ。これから〈ナンバーズ〉は王都のインフラを根こそぎ破壊するつもりだ。〈プラン2〉発動までに残された時間はそう多くない。急いで対処しなきゃ、王国は回復不能なダメージを負うことになるぞ」

 

 ~~~

 

「マジデスか! アンタちょっと強すぎるじゃないデスか!」

 

 〈セブン〉が驚愕に目を見開く。ルル・ラ・シャルロットに騙し討ちや奇襲攻撃を仕掛けるが指一本触れられない——それがゆえの驚きであった。

 鎖鎌を仕舞い、背中の忍刀に手を掛ける。手裏剣、撒菱(まきびし)、マスケット銃、各種暗器に火薬まで、持てる武装を総動員してかかったが、ルルにはまったくといっていいほど通用しない。となれば最後に頼れるのは己の剣のみ——そう断じ、刀を抜く。

 

「想像以上デス……〈王宮メイド〉の頂点がこれほどとは……!」

「ちょっと〈セブン〉! 何遊んでんのよ! さっさと片付けな! 二人同時相手にしてるこっちの身にもなれっつーの!」

 

 〈エイト〉が〈セブン〉へ檄を飛ばす。彼女はたったひとりでフロスト姉妹と交戦していた。

 

「チッ! 相手が悪い! 接近を許してくれない……っ!」

「この程度ですか〈ナンバーズ〉——」

「まったくです、戯れにもなりませんねお姉様——」

 

 両手の回転式拳銃(リボルバー)を構え、フロスト姉妹は嵐のような速射を見舞ってゆく。〈エイト〉はとんでもない跳躍力で射線から逃れ、掩蔽物を確保するのが精一杯であった。

 姉——右目が翡翠色のフィオナ・フロスト。

 妹——右目が瑠璃色のフローラ・フロスト。

 〈エイト〉が対峙する相手は、人呼んで〈フロスト・“ザ・ミラー”・シスターズ〉。ロンドン最強の〈コミュニア〉との呼び声高い彼女たちは、〈ナンバーズ〉への復讐に燃えていた。ウェストミンスターの戦いで姉のフィオナが奇襲攻撃に遭い倒れたからだ。

 

「〈セブン〉! 選手交代! あんたの遠距離攻撃じゃなきゃ、あの姉妹を倒せない!」

 

 フロスト姉妹から撃ち込まれる銃弾をやり過ごしながら〈エイト〉が叫ぶ。中国拳法使いの彼女と二挺拳銃使いのフロスト姉妹、両者の相性は最悪だ。

 

「もうちょっとだけ……! もうちょっとだけやらせてくだサイ!」

「ちょ、おまっ……ふざけんなエセ忍者! こっちは何度も死にかけてんのよ!?」

「夢だったんデスよ、ルル・ラ・シャルロットとの一騎打ち……!」

 

 フッ、と不敵な笑いを浮かべ〈セブン〉は言う。

 

「ここで引くのはブシドーの名折れデス……!」

「あんた武士じゃなくて忍者でしょうが! ——っと!」

 

 〈エイト〉はしゃがんだ姿勢から、予備動作なしのバック宙で後方へ飛んだ。危機を察知しての行動だった。それにしても、とんでもない瞬発力だ。

 

「あんた、気配を消したな……?」

 

 新手の出現に、〈エイト〉は洪家拳(こうかけん)の構えで警戒態勢を取っている。

 

「この私の不意を突くなんて、中々やるじゃない。あんた、名は?」

「……ナナ・ミシェーレ」

 

 剣を構えたナナが、〈エイト〉と四メートルほどの間合いを空けて対峙する。その眼差しはもはや、かつてのナナのそれではない。凄まじいまでの鍛錬を堪え忍び、実戦慣れし、戦士の瞳と化した一人前のメイドの瞳だ。

 

「見たところ仮ライセンス持ちの学生のようだけど、その技、どこで習った?」

「……っ!」

 

 黙したまま応えないナナに〈エイト〉はにやりと笑みを浮かべる。

 

「上出来、上出来。相手に技の正体が知れたらそれまで。己の流派は隠すべし。よく教育されてるね。でも、あんたとよく似た技の使い手、私は知ってる。〈ジョーカー〉ってんだけどさ——」

 

 当ててやろうか? と〈エイト〉は言う。

 

「あんたの師匠はモミジだ。あいつは日の本(ひのもと)出身の本物の忍者だよ。さっきの技、〈ジョーカー〉も似たようなのをよく使う——」

 

 ナナが息を呑んだのを隙と見て、〈エイト〉は地面を蹴って間合いを詰めた。対するナナは覚悟を決め、背後にいるニコルを守るべく敵の攻撃を迎え撃つ。

 一方その頃——〈セブン〉はルルと対峙していた。幾重もの剣戟(けんげき)が響き渡るが、〈セブン〉の攻撃はルルにかすりもしていない。

「……馬鹿にしてるんデスか? 虚仮(こけ)にしてるんデスか? オマエ、さっきから本気の五分の一も出してませんネ?」

「私は戦うすべての相手に敬意を持って剣を向けます。何ひとつ、例外はありません」

 

 ルルは毅然として応える。だが〈セブン〉の顔は怒りに歪んだ。

 

「それは強者ゆえの傲慢デス! 弱者がそれでどれだけの自尊心を傷つけられるか! ワタシはオマエと本気と本気の果たし合いがしたいんデスよ!」

 

 真一文字に払われた剣を、ルルが最小限の動作で弾く。すさまじいスピードで縦横無尽に動く〈セブン〉に対し、驚くべきことにルルは先ほどからその場を一歩も動いていない。いや、動く必要さえないといったほうが正確だった。間合いに飛び込まれた瞬間、ルルは最も労力の少ない動きで敵の攻撃を弾き返してしまうからだ。

 

「オマエのそういう眼……見覚えがありマス。戦うことにどんな恐れも、喜びも見出せない顔デス……ワタシたちのリーダーに、そっくりな眼デスね……!」

 

 ルルは何も応えない。ただひたすらに剣を振るい、〈セブン〉の攻撃を弾き返す。またひとつ、またひとつと、〈セブン〉のメイド服が切り裂かれてゆく。だが致命傷ではない。彼女も彼女でルルの反撃を紙一重でかわしているのだ。常人であれば、とっくに斬り伏せられていておかしくない情勢であったが、〈セブン〉は何とか持ちこたえている。

 

「それともワタシの実力じゃ、オマエの本気を引き出すのに不十分デスか……? だったら……!」

 

 またしても刀を弾き返され、靴底の摩擦とともに後ずさった〈セブン〉は、気勢とともに全身に力を込めた。すると彼女の黒く長い髪がわずかばかりに殺気立ち、その顔に幾重もの青筋が浮き立った。瞳孔が開ききったその顔貌は、獲物に狙いを定めた猛禽類を連想させる。

 

「本気の中の更に本気——これならどうデス!」

 

 瞬間、〈セブン〉の姿が消え失せる。いや、消え失せたのではなかった。見る者の動体視力を凌駕するスピードでルルめがけて突進をかけたのである。日本の剣術に伝わる秘伝の高速歩法〈縮地〉によるもの——だが、それだけでは到底説明のつかないスピードであった。

 〈セブン〉、本名ザキーヤ・アヴドゥル・フセイン。リヴァプールの貧民窟でひとり我流の忍術を鍛え上げた、およそ十年間に渡る修行で会得した『我流の奥義』。意識を怒り一色に染め上げることで、それ以外一切の雑念を取り払い、常人では出せぬ領域にまで身体能力を高める技である。

 幼い頃、強盗同然の人さらいたちの手でどこかへ連れて行かれた弟たち。そのとき何もできなかった自分自身の無力さを、〈セブン〉は瞬間的に脳裡(のうり)で完璧に再現する。あのとき見た人さらいの顔と眼前の敵の顔が重なり合うことで、いわば『脳のリミッターが外れた』状態が顕現するのだ。

 もっと強くあれば、もっと強くさえあれば弟たちを守ることができたのに——悲しみは後悔の念となり、後悔の念は凄まじい怒りの感情に変化してゆく。その瞬間、何かの箍(たが)が外れたように、身体中からめきめきと力が漲(みなぎ)ってくる。

 すると〈セブン〉は常人ではありえぬほどのパワーとスピードを瞬間的に手にすることが可能となる。無論、身体の限界を超えた力を手にすることになるのだから、払う代償は甚大だ。まさしくこれは〈セブン〉にとって、奥の奥の手に相違ない。

 

「ルル・ラ・シャルロット——覚悟オッ!」

 

 ほとんどひとすじの残像となった〈セブン〉は、突き出した刀の先端をルルの心臓めがけて突き込もうとし——そして、鋭い音とともに衝撃を覚え、足が止まる。

 なぜ——そう思う間もなく、理解する。自分とルルのあいだ、わずかもない隙間に女がひとり立っている。

 

「そこまでだ、〈セブン〉」

 

 〈キング〉の声が耳朶を打った。

 

「その技を使うなと言っただろう。目先の勝利のために寿命を縮めるのは、賢い手といえないからな」

 

 〈キング〉は片手の剣で〈セブン〉の刀を、もう片手の剣でルルの剣を、それぞれ巧みに押さえ込んでいる。どこからともなく現れ、両者の間に割って入ることで戦いを中断させたのだ。

 突然の乱入者を至近距離から見据えるルルの顔には、珍しく驚愕の表情が覗いている。だがその理由など〈セブン〉には知る由もない。

 

「どうだルル。〈ナンバーズ〉の兵は強いだろう? こいつが後先考えずに出したいまの技……反応が少し遅れていたな。格下相手と見くびったか? 本気を出さずとも勝てる相手と?」

 

 フンッ、と〈キング〉は鼻を鳴らす。とんだ慢心だ、とも。

 

「本気を出せばこいつを傷つけてしまうだろうという恐れ。そんなところか。相変わらず悪い癖だ。格下の相手はさっさと叩いて無力化するに限ると教えたつもりだったのだがな」

「ステフさんこそ、私を背後から襲うこともできたはず……なぜ戦いを止めたのです」

 

 ルルは〈キング〉の本名を呼ぶ。彼女は〈キング〉のことを知っているのだ。

 

「こいつらをお前と遊ばせておくわけにはいかなくなったのだ。だが、安心しろ」

 

 〈キング〉はルルの剣を押しとどめながら、低く通る声で告げる。

 

「〈ジョーカー〉が……シャルル・ド・アントリーシュが、ビッグ・ベンでお前の来訪を待ち侘びている。心おきなく本気を出して戦える相手だ。お前とて、そうした立ち合いを本当は望んでいるクチだろう?」

 

 眼を見れば分かる、穏やかな眼差しの奥に、飢えた狼を飼っている者の顔だ——〈キング〉はルルに鼻面を寄せ、囁いた。一瞬だけルルの顔が嫌悪に歪む。これも常ならぬ反応だった。

 

「撤退だ! 〈セブン〉、〈エイト〉! 部隊を再編成する、ついてこい!」

 

 ルルから顔を離した〈キング〉が告げた、そのときだった。

 

「ちょっとちょっと——」

「お待ちなさいな〈ナンバーズ〉——」

「このままタダで帰すとお思いですか——」

 

 フロスト姉妹が、至近距離から〈キング〉に銃口を向けている。とんでもない殺気だった。彼女たちは〈キング〉を生かして帰すつもりがないのである。

 

「フィオナ、フローラ……やめてください」

 

 ルルは〈キング〉から視線を切らずに告げた。一方のフロスト姉妹は、揃って同じ方向へ首を傾げる。殺気に満ちた気配を浮かべたまま。

 

「おやおやルル・ラ・シャルロット——」

「敵に剣を突きつけられ恐れをなしたとでもいうのですか——」

「〈フォルセティ〉ともあろう者が、敵前で恐れをなすなど——」

「はやくそこをどいてくださいな、ルル・ラ・シャルロット——」

「あなたが射線に入っていては、撃てるものも撃てやしない——」

「もろともに蜂の巣にされたくば、話は別ではありますが——」

「違うの……聞いて、フィオナ、フローラ……」

 

 ルルはぎゅっと目を瞑った。どうか収めて、とでもいわんばかりの調子だった。しかし、戦闘狂でならすフロスト姉妹がそんな言葉ひとつで引くわけもない。

 

「笑止千万、我々姉妹を舐めないでいただきたい——」

「我らは〈フロスト・“ザ・ミラー”・シスターズ〉——」

「仇敵を前に矛を収める選択などありえない——」

「見くびるなよルル・ラ・シャルロット——」

「そこをどかないというのなら——」

「お前ごと〈ナンバーズ〉を蜂の巣にするまで——」

「違うの……ステフは、あなたたちの敵う相手じゃない……!」

 

 もはや祈るようにルルは叫んだ。途端にフロスト姉妹の顔が怒りで染まる。

 

「黙れ! ルル・ラ・シャルロット——!」

「我らの銃口は! 決して仇敵を逃がしはしない——!」

 

 フロスト姉妹の両手に構えられた回転式拳銃(リボルバー)計四挺が火を吹こうとする——その瞬間だった。〈キング〉が忽然と搔き消えた。

 まず最初に異変に気づいたのはフィオナだった。次に気づいたのはフロストだ。トリガに掛けた指に力が一切入らない。撃てないのだ。そして気がつく。自らが深手を追っているということに。

 

「ガハッ!」

「グウッ!」

 

 姉妹同時に声を発し、ともに大量の血を吐き力なく地面に倒れ伏す。〈キング〉が二人を斬ったためだ。同時にルルが駈ける。しかし、〈セブン〉と〈エイト〉が二人がかりで割って入り、〈キング〉への接近を許さない。

 

「今度こそ撤収だ〈セブン〉、〈エイト〉——〈プラン2〉だ。〈プラン2〉の実行に移るぞ」

 

 そして、突然の爆炎とともに〈ナンバーズ〉の姿がいずこかへ消える。いつの間にか周囲に爆薬を仕掛けられていたのだ。戦いのさなかに〈エイト〉が巧妙に立ち回り、撤退のお膳立てをしていたことに気づいたルルは、ナナとニコル、そしてフロスト姉妹を守るべく、飛んでくるいくつもの瓦礫を剣で弾かねばならなかった。

 

「——ビッグ・ベンに来い。〈ジョーカー〉がお前を待っている」

 

 残された〈キング〉の言葉に、炎の立ち籠める街頭のなか、ルルはひとり立ちすくみ夜空を見上げた。

 

 ~~~

 

「畜生! 逃げられたか……!」

 

 辺りを霧のように覆う黒煙に咳き込みつつ、シエナは立ち上がりざまに吐き捨てた。敵に逃げられたのだ。

 

「手慣れたものです。爆破工作で建物ごと倒壊させることで、こちらの追撃を封じるとは……」

「敵を褒めるなよマリエ。しっかしお前、ひどい顔だぜ。煤だらけでほっぺたなんか真っ黒だ」

「そんなことを言っている場合じゃないでしょう! 敵の言っていた〈プラン2〉……何か嫌な予感がします」

 

 マリエールはシエナに助け起こされつつ、冷静に言った。彼女たちの周辺はとんでもない惨状だった。ここが建物に挟まれた路地裏であったと認識するのに、しばし時間を要するほどであった。それくらい凄まじい破壊の爪痕が刻まれていたのだ。

 家屋が倒壊し、辺りのそこかしこから炎が吹き出し、煙で視界はほとんど遮られていた。もう少しすれば暴徒と化した市民や兵士たちがここへ殺到してくるだろう。その前に、何としてもこの場を離れなければならなかった。

 

「エリザベート! ジュリア! リサ! ユスティーナ! 無事なの? 無事なら返事をしてちょうだい!」

 

 マリエールが声を張り上げる。すると煙の向こう側から、仲間を担いだジュリアとリサが現れた。エリザベートとユスティーナは気絶こそしているが、傷を負った様子はない。不幸中の幸いだった。

 

「〈クイーン〉に〈ジャック〉って言ったか、ありゃ相当強いな」

「〈ナンバーズ〉の幹部クラス。私たち相応の実力者、ってとこね」

「モミジさんの言葉通り、か……。いずれ〈フォルセティ〉と匹敵する相手と当たることになる、ってな」

 

 シエナとマリエールは口々に言い募り、ジュリアやリサたちを連れてその場を速やかに離脱する。なぜシエナとマリエールが一緒にいるのか……ことは少し前に遡る。

 シエナが〈クイーン〉と名乗る敵と戦っているさなか、屋根伝いにやってきた敵がシエナめがけて奇襲をかけた。新手の敵は〈ジャック〉と名乗った。強敵相手の二対一。シエナの状況は悪い方に傾きつつあった。

 同時にエリザベートとジュリアも、新手の敵の襲撃に遭っていた。その者たちは〈ナイン〉と〈テン〉と名乗った。凄まじく強い敵であった。それこそ、〈クイーン〉や〈ジャック〉ら〈ナンバーズ〉の幹部とあるいは比肩しうるほどに。

 

「お久しぶりですジュリアさま。覚えておいでですか……?」

 

 〈テン〉と名乗る男装の麗人めいた敵メイドは、ジュリアに向けてそのように言ったものだった。憎悪を込めた声音で、だ。

 

「わたくしの名は〈テン〉——かつてはオルガ・J・エインフェリアと名乗っていた者にございます」

 

 エインフェリア家の者同士による壮絶な喰い合いが勃発した。そして〈ナイン〉〈シックス〉〈エイト〉ら三人がかりで翻弄されるエリザベート。加えて窮地へ陥りつつあったシエナ。

 絶体絶命の危機にあって、救援へ駆けつけたのはマリエールたちだ。逃げる〈ジャック〉らを追いかけてきた彼女たちは気づいていたのだ。〈ナンバーズ〉は既に撤退のための戦闘行動へ移行している。このまま逃がすと何か取り返しのつかない事態を招きかねない——そうした直観をもとに、マリエールは〈ナンバーズ〉へ必死で喰らいついた。だが、一歩及ばなかった。

 発破使いの〈シックス〉が全力で〈ナンバーズ〉の撤退を支援した。爆破に次ぐ爆破が凄まじい破壊を振りまいた。そして去り際、〈シックス〉はシエナに中指を立てつつ、こう告げた。

 

「お姉ちゃんはアタシより何倍も強ぇ! 〈フォルセティ〉ごときが敵う相手じゃねぇほどにな!」

 

 〈クイーン〉——本名フランチェスカ・チェンチ。元〈エスパティエ〉の殺人アーティスト。彼女は〈シックス〉の実姉であったのだ。

 

「で、この後は?」

「レディントン先生から集合命令が出た。合流地点は手はず通り。先生たち、どうやら上手くやってくれたみたい……」

「ってことは、ロンドン塔に向かえばいいわけだ」

「ええ——敵はさぞ困惑したでしょうね。ロンドン塔の中から攻略されるだなんて、思いもよらないはずですもの」

 

 マリエールの言葉に、シエナはカラカラとした笑い声を上げる。煤だらけの顔で。

 

「まったく、先生ってば大胆不敵な手を思いつくもんだ。〈ナンバーズ〉のふりをして、堂々とロンドン塔に入城するとはな!」

 

 ~~~

 

 ビッグベン。地上から遙か見上げるほどの鐘楼からは、ロンドンのそこかしこから上がった火の手がよく見える。夜空は炎の照り返しでオレンジ色の光を反射し、議会の前には兵士たちや暴徒たちが武器を持って国王の退位を叫んでいる。クーデターにより、王都がいままさに燃え落ちようとしているのだ。

 

「〈賭場(テーブル)〉は完全に出来上がっちまった、ってわけですなぁ。とはいっても、このありさまは賭場なんかを通り越して、もはや鉄火場そのものですがね」

 

 遙か高みから地上を見下ろす〈ジョーカー〉、その背後から陰気な笑いとともに、〈ツー〉を伴った〈エース〉が告げる。

 

「〈円卓(サーカス)〉と〈ハート〉に積んだチップは全部おじゃんだ。でも姉御は、別の目にチップを張るのを怠らなかった……。そんでいま、姉御の張った目にルーレットの球が入ろうとしている。大当たり(ジャック・ポット)は目前だ」

「まだだ——まだ我々は、賭けに勝ってなどいない」

 

 〈ジョーカー〉は言う。厳かに、かつ油断なく。

 その傍らに〈キング〉が静かに歩み寄り、自らの主の肩へそっと触れた。

 

「〈フォルセティ〉、ですね……」

「そうだ」

 

 〈ジョーカー〉は応える。威厳とともに。

 

「あれはモミジが我々に対抗するために生み出した組織だ。我々の喉を噛み千切る、ただそれだけのためにモミジが鍛え上げた精鋭たちだ」

「随分と彼女たちのことを買っているのですね、〈ジョーカー〉」

 

 薄い笑みを〈キング〉は浮かべる。普段の武人然とした振る舞いからは到底想像もできない、色香と柔和さを湛えた笑みであった。彼女は〈ジョーカー〉の前でのみ、そうした表情を覗かせるのだ。そして〈ジョーカー〉も同様だった。

 

「ステフ……君も知っているだろう。何せ〈フォルセティ〉に直接稽古をつけていたのは、君だからな」

 

 〈ジョーカー〉は〈キング〉の本当の名を呼び、儚げに微笑んだ。そうした二人の様子を、〈エース〉はただ黙って後ろから見つめている。参謀役であり〈ジョーカー〉の側近を務める彼女でさえ、二人の世界には到底入ってゆくことなどできなかった。二人はそれこそ〈ナンバーズ〉が結成される以前から、何者をも寄せつけぬ固い絆で結ばれていたのだ。

 幼い〈ツー〉がフリードリヒの入った鳥籠を手に、〈エース〉の袖をぎゅっと握る。

 

「いまだ〈フォルセティ〉という脅威がある中、私たちは……本当に自由を手にできるのでしょうか……」

 

 不安げな声音で〈ツー〉が問う。その小柄な体躯と輝くような金色の髪は、内心の懸念を表すかのようにわずかばかりに震えている。幼い頃、故郷である大ドイツの政府から家族を奪われ、自らのアイデンティティと帰る場所さえも失った彼女は、〈ナンバーズ〉の中で最も自由を渇望していた少女に相違ない。

 スパイの嫌疑をかけられた肉親を秘密警察に殺されたそのときから、祖国を追われたそのときから、〈ツー〉は決して笑顔を覗かせない。

 

「案ずるな〈ツー〉」

 

 〈ジョーカー〉は後ろを振り返り、〈ツー〉の金色の髪筋を優しく撫でる。まるで慈母のような手つきだった。

 

「あのときの約束は違えない。決してな。ザルツブルクの街角で痩せ細ったお前を拾ったあのときから、私はお前の笑顔を見るためだけに戦ってきた——だからそんな顔をするものではない」

 

 〈ジョーカー〉への恭順の意思を示すがごとく、〈ツー〉は顔を赤らめながら頷いた。

 

「さて、〈エース〉。お前の言うとおりの布石は打ち終えた。あとは我々が駒として十全なはたらきをするのみだ」

「姉御でさえ盤上の駒のひとつ……そういうわけですか」

「言ったはずだ。私はキングにしてクイーン、ルークにしてナイト、ビショップにしてポーンだと。敵にもそういう手合いが一人いる。いわば私の後継者だ。そいつを盤上から廃さない限り、我々の張った目は死に目になる」

「ルル・ラ・シャルロット、ですね」

 

 最強の敵の名を〈エース〉は告げる。そして——。

 

「——シャルルさん」

 

 〈ジョーカー〉のかつての名を呼ぶ声が響いた。凜とした、強い意志の籠められた声音だ。

 

「フ……フフフ……」

 

 突如肩を震わせ〈ジョーカー〉は笑う。その名の通り道化師じみた、唇の端と端だけを吊り上げたような、いびつな笑みだ。〈エース〉でさえ思わず寒気を覚えたほどの笑い声であった。

 

「フフ……ハハハ、ハハハハハハハッ!」

 

 〈ジョーカー〉の哄笑は止まらない。そして彼女は何者かの声へ自らの双眸を振り向ける。その顔には、もはやいかなる表情さえも浮かんではいない。

 

「どうやってここまで昇ってきた? 守りを固めていたのは王国の精鋭兵と〈王宮メイド〉の一派だぞ?」

 

 闇の中、爛々(らんらん)と真っ赤に輝く〈ジョーカー〉の眼差しが、突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に向けて注がれる。

 

「——全員、倒しました。あなたを倒す、そのために」

 

 ルル・ラ・シャルロットがそこにいた。闇の中、青く輝く眼差しを、ただ一点〈ジョーカー〉のみに注ぎながら。

 その姿を認め、またしても〈ジョーカー〉の顔が道化師の笑みに歪んでゆく。

 

「なるほど。王国最精鋭を五十七人も撫で斬ったか……さすがは私の後継者。それくらい強くなくては、こちらが困る」

「殺してはいません。命を奪ってなど……同胞を斬るのは、メイド道に反します」

「では、私はどうだ? 私はお前の同胞か?」

 

 〈ジョーカー〉が問う。ルルに向けて。

 

「否、私はもはやお前の同胞ですらない。王都を焼き尽くす大逆者だ。ならば私を殺せるか? ルル・ラ・シャルロットよ」

 

 そう告げる〈ジョーカー〉の耳に、傍らの〈キング〉が顔を寄せる。

 

「では、ご武運を——また会いましょう。これで終わりというのは、私は嫌です」

「ああ、また会おう〈キング〉」

 

 そっと〈ジョーカー〉の頬に口づける〈キング〉の視線は愛おしげに自らの主君の横顔を彷徨い、やがてルルに向けられる。

 

「お前の剣は決して〈ジョーカー〉に届かない。決して、だ——この御方は、お前の知っているシャルル・ド・アントリーシュではもはやない。それを心することだ」

 

 外套じみたメイド服の上着を翻し、〈キング〉はルルの傍らを通り過ぎ、闇の奥へと消えてゆく。〈エース〉と〈ツー〉もそれに続いた。

 大時計の歯車などの機構群に囲まれた空間にあって、残されたのはルルと〈ジョーカー〉、ただ二人だけだ。

 

「もはや見物人は誰もいない。ルルよ、そろそろ『本性』を見せたらどうだ」

 

 〈ジョーカー〉は笑う。ルルは眼前の敵を睨んだまま応えない。彼女の周囲からは、徐々に闘気そのものとでもいうべきゆらめきが湧き出している。誰も見たことのない、本気となったルルの姿が顕現しようとしているのだ。

 

「お前ならあるいは、私の虚無を埋めてくれる……そう信じて、幾多もの戦をたたかってきた。私の信仰は、どうやら今宵ついに報われるようだ」

 

 刷(は)いた剣に指を伸ばし、〈ジョーカー〉は口元の笑みを一瞬で消した。

 

「本当に嬉しいよ、ルル・ラ・シャルロット。君と剣を交えるのが今生最後の望みだった」

 

 ルルは応えず、剣を上段に構え、そして告げる。

 

「いいでしょう。ならば存分に、全力でもってあなたに引導を渡して差し上げます——!」

 ~~~

 

「ルルは戻ってこない、か——」

 

 ロンドン塔の一室。アヴリル・メイベル・レディントンは、親指の爪を噛みながら呟いた。そして、彼女の呟きを聞きとがめる者がひとりいる。ロンドン塔奪還部隊の副長を務めた、ノーラ・オブライエンだ。

 

「あの子に限って命令を無視するなんてねぇ。まさかとは思うけど……」

「そのまさかだ。あいつ、ひとりで〈ジョーカー〉を殺(と)る気だな」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 

「——ともあれ残された猶予はあまりない。さっさと始めよう」

 

 〈フォルセティ〉のシエナ、マリエール、ノフィ。マージョリーとクリス。そしてナナたち前に、アヴリルは大判に地図を卓上に拡げた。ロンドン市街の全域図だ。

 

「先の戦いで我々は多大な損耗を出した。はっきり言おう。〈ナンバーズ〉はこれまでにないほどの強敵だ。モミジさえ斃(たお)されるほどに」

 

 全員の目が、部屋の隅に寝かされた負傷者たちへ注がれる。モミジ、フロスト姉妹、そしてペネロペ。特にモミジをやられた衝撃は大きかった。〈ナンバーズ〉の幹部相手に、ファルテシア王国最強の〈エスパティエ〉が敗れたのだから——。

 実の娘であるカエデは、泣き腫らした顔で自らの母親のそばへ寄り添っている。だがモミジは目を開く気配さえ見せていない。予断を許さぬきわめて危険な状態であるというのが、血の海に倒れていた彼女を救い出し、手当をほどこしたマージョリーの見解だった。

 しかし、そうした状況にあっても、アヴリルは指揮官らしく毅然と告げる。

 

「だが反撃の目はまだ残されている。新たな情報が入った。敵の動きは次のフェーズへ移行しつつある、という情報だ。我々はそうした敵の動きを迅速に封じ、ロンドン全域の支配を取り戻さなければならない」

 

 全員の顔という顔を、決然とした瞳でアヴリルは見つめる。

 

「幸いにして協力な助っ人が現れてくれた——〈スリー〉、そして〈フォー〉」

 

 部屋の後方で壁に寄りかかる二人組に、全員の視線が集中する。〈ナンバーズ〉から離反し、投降した二人組だ。ノフィが彼女たちを連れ立ってロンドン塔に現れたとき、皆が皆、驚愕したものであった。しかし、当の二人の顔は涼しげなものだ。

 

「どもっす……アタシは〈スリー〉。ホントの名前はモニカ・ジャイルズ。モニカ、って呼んでくれて構わない。もう〈ナンバーズ〉でも何でもないからな」

 

 ぶっきらぼうな口調で、赤髪とそばかすの少女、〈スリー〉が言う。

 

「で、こいつが〈フォー〉。リリアーヌ・デトゥーシェ」

「デトゥーシ”ュ”、だ馬鹿野郎」

 

 剣呑な声で〈フォー〉が言った。不良少年同然に座り込み、長銃身のマスケット銃を担ぐ姿には年齢不相応な迫力がある。小柄で幼げな見た目とはまるで不釣り合いだ。体格はリンやカエデとそう変わらないが、しかし潜ってきた修羅場の数が彼女をそうさせたのだろうか、と思わせるような雰囲気であった。

 

「悪ぃ悪ぃ、本名で呼び合うなんざ〈ナンバーズ〉じゃなかったからな」

「〈プラン2〉といったな。〈ナンバーズ〉はどう動こうとしている?」

 

 無駄口を遮るかのようにアヴリルが言った。

 

「目的は王都ロンドンをなすインフラの完全破壊。その果てにあるのは、奪還した〈XD(イクス・デー)〉とファルテシア王国への破壊工作成功の報告を手土産とした、大ドイツへの政治的亡命だ。〈ナンバーズ〉は大ドイツの走狗として、いままさに動いているのさ」

 

 にわかにざわめきが広がる。アヴリルがそれを制した。

 

「〈ナンバーズ〉は〈ハート〉の意思で動くと同時に、大ドイツの意思でも動いていた、というわけか」

「つまり二重スパイだったってことね」

 

 アヴリルの言葉に、いつも通りのノーラの気怠げな声が追従する。そして〈スリー〉ことモニカ・ジャイルズは皆に告げた。

 

「〈ナンバーズ〉の破壊目標は次の四つだ。ビッグ・ベン、コヴェント・ガーデン、王立裁判所、そんでイングランド銀行。これらの破壊は各所同時に実行される手はずになっている。爆弾やら毒物やらを使って、効率よくな」

 

 つまり、とモニカは言う。

 

「王都のインフラを守りたきゃ、同時奪還作戦で対抗するしかすべはない。同時に、かつ迅速に、敵を無力化して奪還するんだ。王都中へ散らばった〈ナンバーズ〉の幹部クラス相手にだ——なぁ、それを聞いて、こうは思わねぇか?」

 

 ほとんど不可能に近い、絶望的な作戦だ、ってな——モニカの言葉に、室内は今度こそ静寂に覆われた。

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